2026年9月26日

疑問
「肥満症の治療薬で心筋梗塞などが減るのは、体重が減るからなのでしょうか?」
セマグルチドは、肥満症の治療に使われる薬の一つです。2023年に結果が報告された「SELECT試験」では、この薬で心筋梗塞などの重大な病気を減らせるかを調べました。
今回ご紹介するのは、その試験で集めたデータを使い、体重や検査値の変化が、病気の減少にどの程度関わるのかを調べた研究です。2026年9月23日に、循環器領域の医学誌「European Heart Journal(EHJ)」に掲載されました。
結論
SELECT試験では、心筋梗塞・脳卒中・心臓や血管の病気による死亡をまとめた結果で、セマグルチドの効果が確認されました。
一方、今回の追加解析では、その効果のうち、どのくらいが体重減少によるものかは、はっきりしませんでした。血糖や炎症なども調べられましたが、効果の仕組みはまだ十分にわかっていません。
結果|心筋梗塞などはどのくらい起きた?
SELECT試験には、45歳以上で、糖尿病のない17,604人が参加しました。心筋梗塞や脳卒中を経験した方、または症状のある末梢動脈疾患(脚などの動脈が狭くなる病気)がある方で、肥満度を表すBMIは27以上でした。
通常の治療に加えて、週1回セマグルチドを注射する群(目標量2.4mg)と、薬の成分を含まない注射(プラセボ)を使う群に無作為に分け、平均39.8か月(約3年4か月)追跡しました。
まず、この試験で心筋梗塞や脳卒中、心臓や血管の病気による死亡が、どのくらい起きたかを見てみましょう。
| 調べた結果 | セマグルチド 8,803人 | プラセボ 8,801人 |
|---|---|---|
| 下記3つの いずれか | 6.5% 569人 | 8.0% 701人 |
| 心臓や血管の 病気による死亡 | 2.5% 223人 | 3.0% 262人 |
| 死亡に至らない 心筋梗塞 | 2.7% 234人 | 3.7% 322人 |
| 死亡に至らない 脳卒中 | 1.7% 154人 | 1.9% 165人 |
表の割合は、追跡中に各項目が起きた人数を、各群の参加者数で割った値です。
3つのいずれかが起きた割合は8.0%から6.5%となり、差は1.5ポイントでした。追跡期間を考慮した解析では、この3つをまとめた結果の相対的なリスクが20%低下し、統計学的に明らかな差がありました。
まとめた結果のハザード比は0.80(95%信頼区間0.72〜0.90)でした。
項目別では、心筋梗塞は減少を示す結果でした。ただし、多くの項目を比べることで偶然差が出る可能性を調整していないため、参考となる結果です。脳卒中単独や、心臓や血管の病気による死亡には、明らかな差は確認されませんでした。
一方、体調の問題で試験薬を中止した方は、セマグルチド群16.6%、プラセボ群8.2%でした。
今回の追加解析|体重が減ったことが理由なのか?
研究者は、同じ試験のデータを使い、体重や腹囲、血糖、血圧、コレステロール、炎症や腎臓の働きを表す検査値の変化を調べました。これらの変化が、心筋梗塞などの減少をどの程度説明するかを計算しました。
腹囲や炎症の指標などが関わる可能性は示されましたが、推定値の幅が広く、どの変化が効果の何割を説明するかは確定できませんでした。体重や腹囲の結果は、解析の方法によっても変わりました。
今回の解析は、薬が効いた理由を探るものです。体重減少とは別の働きが証明されたわけではなく、詳しい仕組みの解明には、さらに研究が必要です。
また、参加者はすでに心臓や血管の病気がある方です。こうした病気のない方にも同じ予防効果があるかは、この研究では確認していません。
当院からのメッセージ
心筋梗塞などの再発予防では、体重だけでなく、血圧やコレステロール、血糖、喫煙なども含めて考えます。薬による肥満症の治療が必要かどうかは、持病や現在の治療、期待できる効果と副作用を踏まえ、一人ひとりで判断します。
足立区・谷在家の「心臓・脳・血管のしばはし内科」では、患者さんに合った再発予防を一緒に考えます。心筋梗塞などの治療歴があり、体重や再発予防が気になる方は、お薬手帳や健診結果をお持ちのうえご相談ください。詳しくは、狭心症・心筋梗塞の診療をご覧ください。
参考文献
Colhoun HM, Lincoff AM, Ryan D, et al. Semaglutide and cardiovascular risk reduction: a mediation analysis of the SELECT trial. European Heart Journal. 2026年9月23日オンライン公開.
Lincoff AM, Brown-Frandsen K, Colhoun HM, et al.; SELECT Trial Investigators. Semaglutide and Cardiovascular Outcomes in Obesity without Diabetes. The New England Journal of Medicine. 2023;389:2221-2232. 2023年11月11日オンライン公開。
